建設業を営んでいくうえで資金繰りを良好に保つことは重要な要素です。給与の支払いや設備投資など、ある程度の資金がなければ企業の経営サイクルはうまく循環していきません。企業によっては出費ばかり先行して、資金繰りが悪化していると悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。
参考までに2022年度の建設業における倒産は1,291件発生しており、低水準が続いた前年度と比較すると大幅に増加しています。建設資材の品不足や価格の急騰などによって工事原価が上昇したために、資金繰りに苦しむ建設業者が増えているのです。
そこでこの記事では建設業の資金繰りに関連した情報を分かりやすくまとめました。建設業の資金繰りが苦しくなる理由や具体的な改善方法について詳しく解説します。また、建設業の代表的な資金調達手段についてもお伝えするので、ぜひ参考にしてください。
建設業の資金繰りの特徴とは
建設業の資金繰りにはどういった特徴があるのでしょうか。建設業の業務の流れから解説します。
建設業の資金繰りの特徴とは
一般的な建設業の業務フロー
一般的な建設業の業務フローは以下の通りです。
- 提案・入札
- 受注・契約
- 設計
- 実行予算作成
- 施工
- 完成
- 竣工後のケア
建設業は構造物の計画設計から工事現場の施工管理、完了後の維持管理など、業務内容は多岐にわたります。
例えば、原価管理では工事における人件費・重機代・材料費の原価を計算します。決められた予算内で工事に求められる品質を確保するだけでなく、自社への利益も確保しなければなりません。予算との差異が生じないように定期的に計画や工程を調整し、適切な利益を生み出すために欠かせない仕事です。
ほかにも、工程管理・品質管理・安全管理といった業務があることで、高い品質の施工を実現しています。
建設業の資金繰りは難しい
建設業の特徴として工事を受注してから入金されるまでの期間が長いという特徴があります。もちろん、企業によって差異はありますが、1ヶ月で入金されるケースもあれば半年以上かかってしまう場合もあるのです。
加えて、建設業の場合だと先行出費が多い傾向にあります。例えば、以下のような費用が先行して発生します。
- 外注費
- 人件費
- 建築資材の材料費
- 重機調達費用
- 仮事務所の設置費用
こうした費用の支払いにプラスして売上が入金されるまでに時間がかかるため、資金繰りに苦労している建設業の会社が少なくないのです。
建設業の資金繰りを改善する方法
それでは、建設業の資金繰りを改善する具体的な方法を見ていきましょう。
建設業の資金繰りを改善する方法
資金繰り表を作成する
資金繰り表を作成してみましょう。資金繰り表とは一定期間の資金の動きを把握するために作成する管理表のことを言います。企業の財務状況の把握だけでなく、資金不足の原因究明などに資金繰り表は有効です。
資金繰り表を作成することの代表的なメリットを以下にまとめました。
- 経営判断に活用できる
資金繰り表は経営判断にも有効に活用できます。経常収支・非経常収支・財務収支ごとにお金を管理できれば、現状を正確に把握することが可能です。例えば、キャッシュフローは安定しているか、借入金返済が滞るリスクはないかといったポイントが明確になります。そうした情報は、販売戦略の策定や追加融資の必要性の判断など、さまざまな経営判断に用いることができるのです。
- 金融機関からの融資に役立てられる
金融機関からの融資を受ける際にも資金繰り表を役立てられます。金融機関から融資を受けるためには、融資の必要性を合理的に説明できなければなりません。そうした際に資金繰り表が作成されていると、数字的な根拠を持って金融機関に対して説明を行えます。金融機関からスムーズに融資を受けるために、資金繰り表を作成してお金の動きを可視化しておきましょう。
- 黒字倒産を防止できる
資金繰り表でお金の流れを管理すれば黒字倒産を防げます。黒字倒産とは損益計算書上の利益がプラスでも、現金預金の残高がマイナスになることで倒産してしまう状態を指す言葉です。資金繰り表によって入出金のタイミングを適切に把握できれば、黒字倒産という事態の発生を予防できます。
キャッシュフロー計算書を作成する
キャッシュフロー計算書の作成も建設業の資金繰りの改善に有効です。キャッシュフロー計算書とは一定期間におけるキャッシュの出入りをまとめた資料です。キャッシュフロー計算書は大きく以下の3つの項目に分かれます。
- 営業活動
営業活動によって発生したキャッシュの出入りを示す項目です。プラスであれば営業活動で利益を生み出せていることが分かります。一方、マイナスの場合には本業がうまくいっていないと判断することが可能です。
- 投資活動
資産運用などを目的とした投資活動のキャッシュの出入りを示した項目です。例えば、設備投資・車両などの固定資産の購入・有価証券の購入などが含まれます。固定資産や有価証券を売却した際などにはプラス、設備投資をした場合などにはマイナスが記載されます。
- 財務活動
投資活動や営業活動を維持するためのキャッシュの出入りを示した項目です。具体的には外部からの資金調達や返済などが該当します。例えば、資金調達が増えていればプラス、借入金を返済しているとマイナスが記載されます。
回収サイト・支払いサイトを調整する
回収サイトや支払いサイトを調整できないか検討してみましょう。
回収サイトの調整について
回収サイトとは売掛金として計上してから入金されるまでの期間のことです。資金繰りを改善するためには回収サイトを早くできないか調整してみましょう。回収サイトが遅いと手元のお金が少なくなってしまいます。お金が入ってくるまでの期間には説明したように設備費や人件費といった支払いが発生するため、資金繰りが悪化する原因になってしまうのです。さらに、回収サイトを先延ばしにしていると、貸倒れの発生といったリスクもあるため注意しなければなりません。
支払いサイトの調整について
代金を実際に支払うまでの期間を支払いサイトと言います。資金繰りを改善するためには支払いサイトを遅くできないか調整してみることをおすすめします。例えば、仕入先に翌月払いから翌々月払いなどに変更してもらえるか交渉してみましょう。ただし、双方にとってメリットのある条件が望ましいので、取引量を増やして確実に支払うといった内容を提案してみることがポイントです。
資金調達を検討する
資金調達を検討することも資金繰り改善のための選択肢です。
資金調達とは企業を経営するために必要な資金を、融資などの手法で調達することを指します。資金調達を行うことで企業の事業活動を円滑にするだけでなく、事業の存続や発展が可能です。
建設業を営む企業が資金調達を行う主な目的を以下にまとめてみました。
- 運転資金
- 設備投資
- 事業拡大
- 企業買収資金
- 納税資金
何のために資金調達するのかを明確にするだけでなく、集めた資金をどうやって返済するかを念頭に考えることが大切です。また、資金調達方法の種類ごとに特徴が異なるので、自社に最適な方法を選定するようにしましょう。
建設業の主な資金調達手段
さまざまな資金調達手段があるために、どういった方法が自社にとって最適か悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは代表的な建設業の資金調達手段について解説します。
建設業の主な資金調達手段
融資を受ける
融資を受けられないか検討してみましょう。
そもそも「融資」とは金融機関などがお金を融通する行為で、資金を必要としている建設業を営む企業が資金を調達する手段の一つです。
融資の特徴として、受けた側には返済義務があり、返済の必要がない出資や投資とは異なります。
それでは融資を受けられる主な方法について解説します。
工事引当融資
工事引当融資とは建設業界特有の融資手段で、請け負った工事の代金を担保にして融資を受ける方法です。工事引当融資を活用すれば工事に必要な経費を短期間借り入れることが可能で、代金が入金された後に返済を行えます。
工事引当融資が必要とされている理由としては、請け負った工事代金は建設が完了したタイミングで受注業者から支払われるケースが一般的であるためです。
工事を施工する企業は人件費などの支払いで必要となる資金を手元に用意しておかなければなりません。工事における人件費や材料費は規模に比例して高額になるため、自社で用意することが難しくなります。そうしたケースにおいて資金を確保するために工事引当融資を活用できるのです。
銀行融資
銀行融資とは銀行が企業に対して事業用資金を貸し出す制度のことです。都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合・ネット銀行など、さまざまな銀行が融資を行っています。銀行融資で資金調達を行う主なメリットは以下の通りです。
- 金利が低い
銀行融資はほかの資金調達方法と比較すると、低い金利でお金を借り入れることが可能です。金利が低いと返済する際の負担を抑えられるため、事業用資金を確保するうえで大きなメリットと言えます。具体的な金利の目安としては、1.00%~4.00%で設定されているケースが一般的です。ただし、借り入れする企業の信用力や借入先の銀行などによって金利は異なるため注意しましょう。
- 利用可能枠が大きい
銀行融資は利用可能枠が高く設定されているため、大きな金額を借りやすい特徴があります。企業の実績や信用力によっては、1,000万円以上の融資を受けることも可能です。さらに、そうした企業が不動産や有価証券などの高額な担保を提供する場合には、数千万円〜数億円を借り入れられるケースもあります。
日本政策公庫からの融資
日本政策公庫からも融資を受けられます。日本政策公庫は国が100%出資する金融機関で、日本の中小企業や小規模事業者などに対して融資といった支援事業を行っています。
中小企業事業・国民生活事業・農林水産事業の3つの事業を柱として、さまざまな融資制度が設けられていて、例えば中小企業事業には以下のような融資制度があります。
日本政策金融公庫の融資制度は、銀行や信用金庫などの金融機関から融資が受けにくい企業の方々をサポートする仕組みが取り入れられています。
ただし、適用金利・融資限度額・融資期間といった利用条件は、それぞれの融資制度によって異なるので必ず詳細を確認しましょう。
手形割引
手形割引とは企業が保有する約束手形を支払期日が来るまでに、銀行や手形割引業者に買い取ってもらうことで現金化する資金調達手段です。
そもそも手形とは支払い期日を一定期間後に設定して約束する証書のことで、一般的には約束手形と呼ばれます。約束手形は買掛金の支払いなどで活用されるケースが多く、支払日に現金が用意できない場合でも約束手形を振り出すことで支払い完了という扱いにすることが可能です。
この約束手形の特徴として、受け取った側は設定した期日まで現金化を行えません。約束手形の期日は一般的には3ヶ月〜4ヶ月後に設定されている場合が多く、それまでは資金繰りも圧迫されます。そうした際に手形割引という手法を用いると現金化が前倒しになるので、資金繰りもスムーズになるのです。
また、手形割引の特徴としては融資を受けるよりも短期間で審査結果が分かることが挙げられます。そのため、最短で即日資金調達を行えるケースもあります。さらに、手形割引の審査は融資と比較すると通りやすい点も魅力です。
ファクタリング
ファクタリングとは債権買取りという意味の言葉で、売掛金を利用して資金調達を行う手法です。売掛とは取引先に代金の支払いを後から請求する方法のことで、売掛金とはその権利や債権を指します。
ファクタリングでは売掛金をファクタリング会社に売却することで、手数料を差し引いた現金を得ることが可能です。ファクタリングを利用すれば売掛金の支払い期日よりも早いタイミングで資金調達できるため、建設業の資金繰りの改善が期待できます。加えて、ファクタリングは銀行などからの融資や借入ではないため、負債が増えないこともメリットです。
補助金・助成金の活用
補助金や助成金の活用を検討してみましょう。
補助金
補助金とは経済産業省や地方自治体などが管轄している制度で、設備投資や事業拡大などの企業の活動を支援するために支給されます。
補助金には企業の事業をサポートする役割があるため、予算が限られているケースが目立ちます。そのため定員も設定されており、申請を行っても採択されない場合も少なくありません。
助成金
助成金とは主に厚生労働省が管轄している制度で、職場改善や雇用促進などの企業の活動を支援するために支給されます。
対象者や対象活動などの条件を満たしていれば、基本的に受給が可能です。申請期間も長期間に設定されているため、多くの企業が受給しやすい特徴があります。
その他の資金調達手段
その他の資金調達手段について以下にまとめました。
遊休資産売却
遊休資産とは事業用の資産として取得したものの、事業変更や新しい機器の購入などによって利用や稼働を停止した資産を指します。そうした遊休資産を売却できれば、資金を得ることが可能です。
加えて、固定資産税などの維持管理費がなくなるだけでなく、土地の管理をする手間もなくなるメリットがあります。ただし、売却代金に対して税金が発生するケースもあるので注意しましょう。
ビジネスローン
ビジネスローンとは事業資金向けのローン商品のことで、法人経営者や個人事業主を対象としたサービスです。借りたお金は、新規事業の立ち上げ・設備投資・取引先への支払いなど、事業に関わる資金として利用することが可能です。
ビジネスローンは、銀行・クレジットカード会社・消費者金融などが扱っており、融資基準や金利については提供会社によって異なるため比較検討が求められます。ただし、公的機関や銀行融資に比べてビジネスローンは金利が高い傾向にあるので計画的に利用しましょう。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとはインターネットを介して不特定多数の方々から少額ずつ資金を調達する手法です。
クラウドファンディングは実績や確実性のない企業でも、資金調達を行える特徴があります。全国各地の幅広い相手から賛同を得られれば、手軽に資金調達の実施が可能です。さらに、ブランディングや新規のファン獲得にも、クラウドファンディングは有効です。
ただし、目標としていた金額を調達できないリスクもあるため、活用する際は慎重に判断しましょう。
各資金調達手段の注意点
さまざまな建設業における資金調達手段について解説してきましたが、利用する際にはいくつかの注意点があります。主な資金調達手段の気をつけたいポイントについて以下にまとめました。
各資金調達手段の注意点
融資の注意点
融資を受ける際には主に以下のようなポイントに気をつけましょう。
入金まで期間を要する
融資を受けてお金が入金されるまでには一定の時間がかかります。
融資を受けるまでの一般的な流れとしては、相談や申込を行ってから面談や審査が実施され、問題ないと判断されたら融資が実行されます。
申込から入金までの期間は、2週間〜5週間程度を要するケースが一般的です。金融機関や融資のタイプによって差異はありますが、即日の融資は厳しいので注意しましょう。
審査をパスしなければならない
銀行の融資を得るためには審査をパスしなければなりません。
財務の健全性や事業の成長性をアピールするために、企業の財務状況を表す事業計画書や財務諸表を提出する必要があります。事業計画書においては借りた資金を何に使用して、資金をどのように返済していくかを分かりやすく記載しなければならないのです。
審査を通過できるように丁寧に準備を進めましょう。
金利が発生する
融資を受けるためには金利が必要です。金利の相場は金融機関によって異なりますが、一般的に銀行などから融資を受ける場合には消費者金融などと比較すると低いとされています。
ただし、前述した審査が厳しい傾向にあるため、結果が出るまでに時間がかかる点には留意しましょう。
ファクタリングの注意点
ファクタリングを利用する際の主な注意点についてまとめてみました。
売掛債権がなければ利用できない
ファクタリングを利用するための前提条件として、売掛債権がなければ利用できません。売掛債権を持っていなければ、ほかの資金調達手段の利用を検討するようにしましょう。
手数料は審査後に判明する
ファクタリングを利用するためにはファクタリング会社への手数料の支払いが必要ですが、具体的な金額が判明するのは審査が終わった後です。
手数料の大体の目安はありますが、売掛先の信用力や売却を希望する売掛債権の額面などで変わります。いくつかのファクタリング会社に見積もりを依頼して手数料や利用条件を確認してから、利用するサービスを選定しましょう。
売掛先に知られるケースがある
2社間ファクタリングでは債権譲渡登記を求められるケースがあるため、売掛先に知られる場合があります。債権譲渡登記を行うと、債権が譲渡されたことが記載されます。そうすると、概要記録事項証明書の交付などでファクタリングを利用した事実が、売掛先や銀行が知ってしまう可能性があるのです。
補助金・助成金の注意点
補助金・助成金の主な注意点は以下の通りです。
資金は後払い
補助金・助成金はどちらも事業の着手前には支給されません。事業の実施後に支給される後払いの制度なので注意しましょう。
資金を支給されるためには、まずは補助金・助成金の申請をしなければなりません。支給が決定したとしても、該当の事業を行うための費用は自社で準備する必要があります。
事業を実際に行い、後日に費用の一部が補助金や助成金として支給されます。
事業期間外の支出が支給対象にならない
補助金・助成金は基本的には支給の対象事業について期間が定められています。補助金・助成金の支給対象となるのは、該当事業の実施期間内に支出した諸経費のみです。事業期間から外れて発生した諸経費については、補助金・助成金の支給対象とはならないので注意しましょう。
申請から支給まで時間がかかる
補助金・助成金はどちらも申請してからお金が支給されるまでにそれなりの時間がかかります。
助成金は申請先によっても左右されますが、申請から受給まで6ヶ月~1年程度は待たなければなりません。
補助金については根拠となる資料の提出や検査の実施などといった手間もかかるため、目安として2ヶ月~3ヶ月程度は時間がかかります。
建設業の資金繰り緩和には「支払い.com」がおすすめ
建設業の資金繰りを改善しようと取り組んでいる企業が目立ちます。場合によっては最適な資金調達を検討することで、資金繰りが改善するケースも少なくありません。資金調達にはさまざまな方法があり、特徴もそれぞれ異なります。資金調達までが早い方法もあれば、金利が高く設定されている手法もあるのです。資金調達方法ごとのメリットやデメリットを比較検討することで、最適な方法を選定しましょう。また、手軽に建設業の資金繰りを改善したいとお考えであれば、ファクタリングより安い手数料で資金繰りが改善できる「支払い.com」もおすすめです。