健康保険や厚生年金保険などからなる社会保険は、従業員の健康や将来の生活を維持するための大切な保険制度です。保険料は毎月の給与から天引きで徴収され、事業主負担分と合わせて会社が一括して納付します。
給与から天引きの社会保険料は、源泉徴収される所得税や住民税と合わせて、従業員の大きな負担となっています。一方、社会保険料は労働者と事業主が半額ずつ負担する労使折半となっているため、会社にとっても大きな負担です。
万が一社会保険料が払えないとどうなってしまうのでしょうか。当記事では、社会保険の概要とともに、滞納した場合に起こり得る事態と、納付できない場合の対処法を解説します。
社会保険を滞納するとどうなる?
健康保険料や厚生年金保険料などからなる社会保険料は、毎月の給与から天引きで徴収され、事業主負担分と合わせて会社が一括で納付します。毎月月末までに納付しなければならない社会保険料を何らかの理由で滞納してしまった場合、どのような事態が起こるのでしょうか。ここでは、社会保険料を滞納した場合に起こり得る事態を解説します。
社会保険を滞納するとどうなる?
督促される
社会保険料は毎月納付しなければならず、1度でも滞納すると督促を受けるのが一般的です。
まず、本来の納付期限から約1週間後に、納付を促す督促状が送付されてきます。納付書も同封されているため、督促に従って社会保険料を直ちに納付しなければなりません。
督促状には新たな納付期限と滞納している社会保険料の金額が記載されており、納付期限までに記載の金額を正しく納付すれば、延滞金などのペナルティを科されることはありません。なお、新たな納付期限は納付書の発行日から10日後です。
納付期限までに保険料を支払わないと、電話による督促や、場合によっては会社などへの訪問で指導を受ける可能性があります。督促状を受け取ったら放置せずに、速やかに対応することが重要です。
延滞金を課される
社会保険料は1度滞納しても、督促に従い直ちに納付すれば、延滞金などを課されることはありません。しかし、督促状に記された新たな納付期限までに支払わなかった場合、本来の納付期限の翌日から納付日の前日までの期間、保険料に一定の割合を乗じた延滞金が課されます。
延滞金の割合は下記の通りです。
納付期限の翌日からの日数 | 延滞金の割合 |
---|---|
納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日まで | 年2.4% |
納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日の翌日以降 | 年8.7% |
※令和5年1月1日から令和5年12月31日までの延滞金利率です。
また、延滞金は下記の計算式によって求められます。
- 納付期限の翌日から3カ月を経過する日まで
納付すべき保険料額(※)×延滞金の割合(2.4%)×日数÷365=金額1
※保険料額に1,000円未満の端数があるときは、その端数を切捨てます。
- 納付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降
納付すべき保険料額(※)×延滞金の割合(8.7%)×日数÷365=金額2
※保険料額に1,000円未満の端数があるときは、その端数を切捨てます。
- 延滞金の総額
金額1+金額2=延滞金(※)
※100円未満の端数は切捨てます。
滞納が長期間に及ぶと延滞金が高額となるため、社会保険料が支払えない場合は早めに対策を取ることが重要です。
財務調査や強制捜査を受ける
督促されてもなお社会保険料を支払わなかった場合は、財務調査が行われます。個人事業主や法人の代表者に対し、保有する資産や財産について聞き取り調査を行うのが財務調査です。資産や財産は、現金・預貯金・不動産・動産・売掛金などが対象となります。
財務調査で成果が得られなかった場合は、強制捜査が行われる可能性もあるため注意が必要です。財務調査は原則任意で行われる聞き取り調査ですが、捜査は強制力があるため拒否することはできません。強制捜査では、個人事業主や法人代表者の自宅へ立ち入り調査、取引金融機関に保有する口座残高の調査、取引先などへの聞き取りによる売掛金など保有債権の調査、などが行われます。
財務調査や強制捜査で虚偽の報告をしたり、財産を隠匿したりすると処罰の対象となり、悪質な場合は書類送検される恐れもあるため注意しましょう。
財産を差し押さえられる
財務調査や強制捜査で差し押さえ可能な資産や財産が見つかった場合は、滞納している社会保険料に相当する資産・財産の差し押さえを受けるのが一般的です。現金や預貯金の差し押さえに加え、不動産・動産・売掛金などが換価されます。
差し押さえを受けると事業運営にさまざまな影響が及ぶため、十分注意が必要です。例えば、業務に必須の不動産や動産を差し押さえられると事業運営が困難となり、倒産のきっかけとなるかもしれません。また、預貯金が差し押さえられると、差し押さえの事実が取引金融機関に知られるため、融資を受けにくくなります。さらに、売掛金が差し押さえられることで、取引先に経営状況の悪化を疑われ、取引停止に発展することもあるでしょう。
このように、資産・財産の差し押さえは事業運営に多大な影響を及ぼすため、差し押さえに至る前にしかるべき対応を取ることが重要です。
社会保険料に関する注意点
社会保険料にはいくつか注意しなければならないポイントがあります。ここでは、社会保険料を納付する上で知っておかなければならない点をご紹介しましょう。
社会保険料に関する注意点
日割り計算はされない
社会保険料は日割り計算されません。月の途中で入社し社会保険に加入したとしても、1ヶ月分の保険料を納付する必要があります。一方、社会保険料は月末時点で在籍している被保険者に生じるため、月の途中で退職した場合は退職月の保険料を納付する必要がありません。
ただし、同月中に被保険者の資格を取得し喪失した場合は「同月得喪」に該当し、1ヶ月分の保険料を納付しなければならないため注意が必要です。
翌月徴収・翌月納付が原則
当月分の社会保険料は、翌月の給与から徴収し、翌月末までに納付するのが原則です。翌月徴収・翌月納付の原則は健康保険法と厚生年金保険法で定められており、数ヶ月分の保険料を遡って徴収することなどは認められていません。
ただし、月末退職する場合は、前月分と退職月分の2ヶ月分の保険料を退職月の給与から徴収することが可能です。加えて、前章でご紹介した同月得喪の場合も、1ヶ月分の保険料を当月分の給与から控除できます。
社会保険料が納付できない時の対処法
冒頭でも解説したとおり、社会保険料を滞納するとさまざまな弊害が生じます。滞納を続けると差し押さえなどを受け、倒産のきっかけとなるかもしれません。ここでは、社会保険料が支払えない時の対処法をご紹介します。
社会保険料が納付できない時の対処法
支払い.comを利用して支払い期限を延長する
有力な方法のひとつとして、後払い・期日延長が可能なサービスを活用することにより、納付期限を延ばすことが挙げられます。
その中でもおすすめしたいのは、手持ちのクレジットカードだけで支払い期日延長が可能な支払い.comです。支払い.comによるカード決済・期限延長は、事業取引はもちろんのこと、社会保険料の納付にも利用できます。
本来であれば、後述するような「社会保険料の納付猶予」「分納相談」「換価の猶予申請」といった対応を取らなければならない資金難の状況でも、支払い.comであれば煩雑な手続きを経ずにオンラインで延長が可能なため、事前に登録しておくと効果的です。
督促状は放置せずに早めに相談する
社会保険料を滞納して督促状が送られてきたら、早めに相談しましょう。厚生年金保険・社会保険の相談窓口は日本年金機構です。所管の年金事務所に保険料が支払えない旨の連絡をすれば、善後策を紹介してくれます。
督促状を受け取ったら、放置せずに早急に対処することが重要です。放置してしまうと延滞金が課せられたり、財務調査・強制捜査を受けたり、財産の差し押さえを受けたりする恐れがあります。
納付の猶予を申請する
何らかの事由で社会保険料の納付が一時的に困難になった場合は、納付の猶予を申請することが可能です。なお、納付の猶予を受けるには、下記のいずれかに当てはまる必要があります。
- 財産について、災害を受け、または盗難にあったこと
- 個人事業主または同一生計の親族が病気にかかり、または負傷したこと
- 事業を廃止し、または休業したこと
- 事業について、著しい損失を受けたこと
- 上記に類する事実があった場合
納付の猶予が認められた場合は、本来の納付期限から原則1年間、最長2年間にわたって社会保険料の納付が猶予されます。
分納の相談をする
納付の猶予が認められると、滞納している社会保険料は猶予期間中に分割して毎月納付することになります。納付の猶予が認められたからといって、滞納金の支払いを待ってくれるわけではないため注意が必要です。
なお、延滞金については猶予期間中に限り全部または一部が免除されます。財産が差し押さえられたり、売却などによって現金化されたりすることもありません。
分納期間や毎月の納付額などについては、申請者の財務状況等にあわせて日本年金機構が個別に判断します。そのため、猶予の申請、分納の相談をする際は収支報告書などを作成し、会社の資産・負債・収支状況を正確に説明することが重要です。
差し押さえを受けたら換価の猶予を申請する
納付の猶予申請が間に合わず、万が一差し押さえを受けてしまったら、換価の猶予を申請しましょう。換価の猶予申請とは、差し押さえられた財産を売却などによって現金化されるのを猶予してもらうための申請です。換価の猶予を受けるには、下記のすべてを満たす必要があります。
- 保険料等を納付することにより、事業の継続が困難になる恐れがあると認められること
- 保険料等の納付について、誠実な意思があると認められること
- 納付すべき保険料等の納付期限から6ヶ月以内に申請されていること
- 換価の猶予を受けようとする保険料等より以前に滞納または延滞金がないこと
- 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
納付の猶予が認められた場合は、申請より原則1年間、最長2年間にわたって換価が猶予されます。換価の猶予期間中は、納付の猶予期間中と同様、滞納している保険料を分納しなければなりません。延滞金については、一部が免除されます。
換価の猶予が認められるには、滞納している保険料の納付に関して早期に相談し、誠実に対応しなければなりません。そのため、保険料に滞納が生じた場合は、放置することなく早急に対処するようにしましょう。
破産申請を検討する
猶予申請が認められなかったり、認められても滞納金の分納が難しかったりする場合は、破産申請も一つの方法です。
ただし、社会保険料は税金と同様に破産で免責されません。そのため、個人事業主等の自己破産では支払い義務が残ってしまうため注意が必要です。しかし、法人の場合は破産手続の終了と同時に法人格が消滅し、社会保険料の支払義務も消滅します。
滞納金を支払わないことで、保険給付が受けられなかったり、厚生年金の加入期間が短くなったりするような不都合もありません。従業員や取引先に迷惑が及んだり、保険料の滞納でさまざまな弊害が生じたりする前に、破産申請を検討することも重要です。
資金繰りの改善には「支払い.com」がおすすめ
今回は社会保険の概要と、払えない場合の対処法を解説しました。厚生年金保険料と健康保険料・介護保険料からなる社会保険料は労使折半で、毎月従業員の給与から労働者負担分を天引きし、事業主負担分と合わせて会社が一括して納付しなければなりません。納付先は日本年金機構です。
社会保険料を滞納すると、督促、延滞金、財務調査・強制捜査、財産の差し押さえなどさまざまな弊害が生じます。事業運営に必要な財産を差し押さえられると、倒産につながる恐れもあるでしょう。
社会保険料を滞納し督促を受けた場合は、放置せずに早急に対策を取ることが重要です。早めに相談すれば、納付の猶予、分納、換価の猶予など一定の配慮を受けることもできます。
資金繰りを改善する方法としては、支払い.comの利用もおすすめです。